人手不足時代の経営戦略(3/3)
2018.10.08


宮城県よろず支援拠点コーディネーターの佐藤創です。

人手不足時代の経営戦略と題した連続コラムの最終話です。

前回は、日本の外部環境、特に人口構造の変化や労働市場の変化を解説しました。

生産年齢人口はどんどん減少していくので、今後は女性やシニアの活用を図り、人手不足の状況に対応するような経営戦略や人事戦略が必要になってくることがお判りいただけたのではないかと思います。

今回は、企業側でどういった対応をすることで人手不足時代に応じた戦略を描けるのか、その方法論について述べたいと思います。



1.女性活用・シニア活用の事例から読み解く人手不足対応戦略

まずは事例ベースで女性活用・シニア活用で人手不足を乗り越えた事業者さまを見ていきます。



産廃の中間処分業を営む事業者です。ここでは、以前より資格取得を推奨する制度がありました。

たまたまなのですが、女性がこの制度を活用してフォークリフトの資格を取得します。

ただ、経営者は戸惑いました。「フォークリフト業務は男の業務だし、どうしよう。でもひとまずやらせてみるか、、、」

すると、女性でも業務を遂行でき、生産性が向上することがわかりました。


ここで経営者は女性活用にかじを切ります。育児者向けの柔軟なシフト制度を設けるなどして、職場環境を女性が働きやすいように見直します。

その結果、女性のパート従業員の採用・定着が実現し、女性活用による事業規模拡大につながりました。




では、次にシニア活用の事例を見てみましょう。



この会社では、稼働率を高めるため土日も向上を稼働したいと考えていました。ただし、今の正社員は若年層が多く、ここに土日まで働かせると不満が出ると考えました。


そこで経営者はシニア活用にかじを切ります。土日祝日だけ働けるシニアのパート採用を始めたのです。狙いは的中し、シニアの採用ができ、工場全体の稼働率アップが実現できました。

すると思わぬ副産物が得られます。土日祝日だけ働いていたシニア層から、「仕事が面白い、働き甲斐があるので、平日のシフトも入れてもらえないか?」と申し出があります。

平日は難加工を中心に行っていましたが、経営者は作業指示書の文字を拡大するなどし、シニア活用のため業務の見直しを行いました。その結果、平日でもシニアのパート活用が進み、更なる生産性向上やコスト削減効果を得ることができました。




2.事例に共通する「採用活動以外」の経営判断の重要性

以上までの事例を見て気づくことは何かありませんか?



そうです。

「人手不足感」を感じているからと言って、単に今まで通りの求人を出して採用活動しただけでは、決して乗り越えることができなかったということがわかると思います。


なぜなら、、

・女性やシニアの活用をするため、業務の見直しを行い、これまで正社員や男性だけが携わると考えていた仕事を、女性やシニアでも担当できるように変更し、生産性を向上させている

・女性やシニアが働きやすい職場になるように、育児中シフト制度や、文字サイズを大きくするなど、職場環境の改善を行っている

といった、採用以外の活動をしっかりと行っているからです。



上記のような生産性向上のための業務の見直しや、職場環境改善を行わず、いままでの求人像である「正社員・フルタイム勤務」の人を求めて採用活動をしただけで、はたしてこのような成果を生むことができたでしょうか?


前回までに求人像の見直しを行わない限り、人手不足時代を乗り切ることは難しいと述べましたが、事例の事業者は生産性改善を含め求人像の見直しも行っていることが共通していると思います。






3.人手不足時代の新セオリー

事例から導かれる結論をここで述べます。

人手不足時代の採用・定着新セオリーは以下です。


・人手不足感があるからといって、「経験者・正社員・フルタイム」の条件で採用活動だけをしても効果が薄いケースが多い

・よって人手不足なのは、仕事のやり方や仕事の枠割分担が不適切で、生産性が低くなっている可能性をまずは検証する必要がある

・生産性向上の施策を打っても人員が不足している場合は、仕事の役割分担を見直し、パート活用やシニア活用を含めた「求人像の見直し」を行って採用活動をする必要がある

・これまで活用していなかった女性やシニア、パート活用に踏み出した場合、新規従業員層が働きやすい職場環境を整えるため、各種制度や人材育成の仕組みを構築する必要がある



人手が慢性的に足りないのは、どの事業者も同じです。
本当に採用しなければならないのか、もしくは無駄な仕事を削減することで乗り越えられるのか、その見極めをすることが肝要です。


以上をまとめると、人手不足感への対応としては、大きく「生産性向上」と「採用・定着」の2つの方向性が考えられます。

逆を返せば、経営における「生産性向上」と「採用・定着」のどこかに課題や問題があるから、人手不足という現象が引き起こされているといえます。

なので、自社のどこに人手不足につながる原因があるのかを探ることから始めなければなりません。

「人手不足現象を因数分解」することで、自社の原因を明確にすることができます。
以下に、「生産性向上」と「採用・定着」における、人手不足の原因を掘り下げた図を掲載します。






人手不足の要因は多岐にわたります。

現場では、「忙しいので人を入れてほしい」と思ったとしても、本当に人を入れることが解決策になるのかは疑うべきです。なぜなら、「仕事に無駄がある」「やらなくていい業務が存在している」「そもそも仕事の段取りが悪い」可能性もあるからです。

こうした仕事の生産性向上に責任を持つのは、管理者層や経営者層です。問題の深さによって、現場レベルの対応なのか、管理者・経営者レベルの対応が必要になるのか、まったく異なってくるのです。


これら、「生産性向上」と「採用・定着」の対応策を1つの図にまとめたものを示します。



この全体像が、人手不足時代の経営戦略の結論です。

どこに問題があり、どこを改善すべきか。人手不足時代では、経営全体を踏まえて、真の原因を見つけて1つ1つ対処することが求められるのです。




前述の2事例を、この全体像に当てはめてみましょう。



両方の事例も、最終的には採用や定着に結び付いていますが、それ以外の改善を行ったからこそ、最終的に成果が出ているのです。

人手不足の原因は複雑に絡み合っています。どこから手を付けるべきか、その対応方針を見誤るといつまでたっても真の原因が解決せず、人手不足が解消しない可能性があるのです。




4.人手不足対応ガイドライン

中小企業庁では、こうした人手不対応についてガイドラインを提示しています。



あくまでガイドラインのため、これを自社の経営にそのまま適用することが難しいケースがあります。よって、当方が概要レベルで人手不足対応フローを作りました。




あくまで参考までですが、人手不足の真の原因がどこにあるのかを分析し、適切な手段で解消することを念頭に置く必要があります。





5.よろず支援拠点での支援事例

ここで当方の支援事例を参考までに掲載します。



クリーニング業を営む事業者様で、各店舗でのパート離職に伴うシフト組成困難な状況になっていました。

そのため、本部で事務や管理を行うべき中核人材がシフトの穴を埋めるために店舗に入っており、なかなか本腰を入れた採用活動などに着手する時間を捻出できません。

業務についても日報が手書きであったり、タイムカードの集計作業が手作業で非効率であるなど、本部の事務作業軽減も課題となっていました。


結果的には、最初に本部管理スタッフの事務作業軽減を図ることで余裕時間を生み出し、その時間で採用・定着活動を行う、という順序で支援を行うことを提案しました。




人手不足を解消するためには順序があるということです。

本事例でも、定着率が悪いという課題がありますが、定着率の改善を図らずに採用活動だけしても、本質的な解決にはなりません。定着率を改善することが喫緊の課題であり、そもそもその改善活動を行う時間を捻出するための生産性向上が、最優先の課題ということになります。





6.人手不足改善のための手順

みなさまの会社で人手不足の改善を図るには、どのような手順で行えばよいでしょうか。

まずは、人手不足となっている原因を「なぜなぜ分析」して掘り下げてください。

これは、1つの現象の原因を掘り下げ、その原因が発生している更なる原因を掘り下げていく方法で、真の原因をあぶりだすために有効な手段です。


例として、採用ができない、といった現象の原因をなぜなぜ分析した事例の図を示します。




現象を引き起こしていると思われる原因を、現象の下に矢印でつないで記載していきます。その結果ツリー状の図を描くことができます。

真の原因と思われる事業まできちんと掘り下げることが重要です。




上記のように、真の原因が明確になれば、その原因に対して対策を打ちます。

けっしてツリーの上部の課題だけに性急に対策を打ってはいけません。真の原因に対策を打たないと、根本的な課題解決にはつながらないからです。

逆に、真の原因にきちんと対策が打てれば、ツリーの上部も変化するのです。






7.まとめ

人手不足 イコール 採用活動の強化、といった短絡的な行動だけでは、今後の人手不足時代の人事戦略・経営戦略としては打ち手不足です。

むしろ、こうした人手不足の全体像を把握して、生産性の向上や求人像の見直しを積極的にできる事業者は、今後の人手不足時代の環境に即座に適応できるので、よりアドバンテージを得られるのだと思います。



人口構造の変化に伴う労働市場の変化が始まっています。
そして今後は、人手不足の状況が大きく改善することは望めません。

よって、これまでの求人像を見直し、パートタイムやシニア・女性・外国人などの活用を見据える必要があります。そのためには、これまでフルタイムの正社員だけで行ってきた仕事の仕方を見直し、パートや非経験者でも業務を回せるようにする、職場環境改善や生産性向上が必要になってきます。


こうしたことを総合的に取り組むことが、今後の日本の生産性向上に資する活動になり、国際競争力の強化につながると信じています。


宮城県よろず支援拠点では、こうした人手不足対応のご相談を承っております。
まずはお気軽にご相談を頂ければと思います。



<筆者>
宮城県よろず支援拠点コーディネーター 中小企業診断士 佐藤 創。
人手不足対応広域アドバイザ。

第1回記事:http://www.yorozu.miyagi-fsci.or.jp/cafe/html/art/00054.html
第2回記事:http://www.yorozu.miyagi-fsci.or.jp/cafe/html/art/00057.html
第3回記事:本記事
2018.10.08 13:27 | 固定リンク | 経営ミニコラム

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